衒学ポップ :\ Notes \ アンチ・マンション・ページャーズ




ウェブサイトという言葉は、ウェブページの集まりという意味だし、広義にはブログやSNSもウェブサイトに含まれる。私的なウェブサイトのみを指す場合も多いが、本稿では、「ウェブサイト」という言葉は前者の意味を指すとする。

本来は、インターネット・ブラウザ起動時に表示されるページを指す言葉だが、日本ではスラング的に、ウェブサイト全般を指して「ホームページ」と言うことがある。これは「私的な」というニュアンスをうまく表現しているし、やはりそういった、私的なウェブサイトのみを指す場合も多い。本稿では、「ホームページ」という言葉は後者の意味を指すとする。

ホームページが私生活の場、即ち家ならば、企業のウェブサイトはスーパーマーケットやオフィス・ビルだろうか。ではSNSやブログはといえば、マンションやアパートだ。

ただし留意しなければならないのは、オフラインと違い、その殆どが来客を前提として存在することである。人を招いてもてなすための、建物・部屋。住むためのものではないのである。

さて、SNSやブログは、リンクやコメントが容易に出来る設計になっている場合が多く、ご近所付き合いというものが推奨されている。そのため入居者同士で「横の繋がり」が構成されるのが普通だ。全員が同じ建物に住んでいるため、訪問して回るのが楽なのだ。

また、HTML等の専門的な知識を必要としないようにインターフェイスが設計されている場合が多く、参加に於いてもコンテンツの作成・管理に於いても、ホームページよりも楽である。つまり契約金も維持費も安いということだ。この、コストが小さくて済むという性質はメリットであるととらえられるが、デメリットも誘発する。

その手軽さから、間に合わせに入居する者が増加する。一軒家を用意するよりも楽だから、とりあえずマンションに入居するのである。その内また引っ越すか、住居を引き払って風来坊になろうという魂胆の者が増える。暫時的だという点に於いて、マンションは、家と同じく芸術でありながら、エンターテインメント寄りの性質を持っているのである。マンション設計自体が暫時的な入居を推進しているようにも思われる。長期的な利用に耐えうる設計のマンションが、一体どれだけあるというのか。

もう一つ、短絡的に入居する者は、美しい家具、また、それを配置する構想すら持たない場合が多い。そして無計画さが部屋の乱雑さを呼ぶ。散らかった部屋というのは多くの人が嫌がるものだ。入居者自身が気にしていなければ問題無いというわけではない。それはいわば純粋芸術(自分向け芸術)であり、それを公開することはナンセンスだ。鍵をかけて、他人が入れないようにする気が無いのなら、とっとと部屋を整理整頓して、大衆芸術(他人向け芸術)にしてしまうべきだ。

ここまで、家とマンションの相違について書いてきた。この辺りで私個人の立場をはっきりさせておくが、私は、マンションにそこまでのメリットを感じていない。

まず、入居者同士の横の繋がりであるが、同じ建物に住んでいるからといって、なぜ仲良くする必要があるのかわからないのである。隣人であるなら、話が合う期待値が大きくなると言う主張は当然、根拠が無い。

またコストの小ささも、住宅事情や部屋の整理整頓術に詳しい者にとっては大した魅力を持たない。第一、客を招きもてなすときに、手を抜くことを考えるのは、本来は失礼に当たるではないか。

マンションも芸術であるのに、永続性の追及を放棄するというのも頂けない。エンターテインがしたければ、路上ライブでもすればいいのではないであろうか。転居、転居を繰り返すのならば、最初から何処にも入居しなければ良い。

私は、「短絡的な入居に次ぐ純粋芸術の公開」の事例を多く見て来た為、マンション住まいの増加は芸術家の質を下げ、量を増やすものだと考えている。その分才能豊かな芸術家が登場する期待値が大きくなるとも言えるが、市場全体が雑多なものになるのはどうかと思うのである。

本来一戸建てでの活動に向いていた芸術家まで、マンションに――主に怠惰から――入居していってしまっているのが今の状況なのである。非常に嘆かわしい。


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