衒学ポップ :\ Notes \ ターゲット層外の客を排除せよ




前提

「芸術品」という語は、内的快感を生むように作られたもの全てを指す。

「売り手」という語は、芸術品を公開する者全てを指す。



Target



芸術品には必ず、ターゲット層というものがある。例えばスポーツカーは高所得者をターゲット層としているし、タバコは成人をターゲット層としている。逆に言えば、低所得者はスポーツカーのターゲット層ではないし、未成年はタバコのターゲット層ではない。

ここにわかるように、ターゲット層にも種類というものがある。よって、万人受けを狙った芸術品もあれば、マニア受けを狙った芸術品もあるわけである。

さて、全人類をターゲット層としていれば、いつでもどこでも芸術品を公開できるし、宣伝も出来る。しかし殆どの場合においてターゲット層は、ある程度の限定性を持つものである。であるから、スラム街にスポーツカー販売店をオープンすることはナンセンスだし、小学校にタバコ販売機を設置することも同じである。

ただし、高級住宅街にスポーツカー販売店をオープンさせようが、低所得者の目に完全に触れないようにしたことにはならないし、オフィス街にタバコ販売機を設置しようが、未成年の目に完全に触れないようにしたことにはならない。不特定多数に公開していることに変わりは無いからである。

個人取引のみに抑えるなど、特定の客にしか公開しないのならば、ターゲット層外の客をある程度避けることが出来るかもしれないが、芸術公開の規模は大幅に制限される。よって、多くの者が不特定多数に公開するのである。

こうして、ターゲット層外の客が現れるのである。彼らも当然ながら、芸術品について感想を述べるだろう。表に出さなかったとしても、少なくとも何らかの感想を抱くことは間違いない。そしてその感想は、決して良いものにはならないだろう。

であるから、売り手側は、彼らをフィルタリングによって排除しようとする。ここではそういったフィルタリングの方法を、二つ挙げることとする。



アレルギーの促進

これは芸術品がターゲット層外の客の目に触れても、彼らが自然と避けていくように促す方法である。スポーツカーにおける、高級車としてのブランディングがそうである。低所得者は、最初からスポーツカーを自分とは違う世界のものとして捉えるし、買えやしないことがわかっているから販売店に入ろうともしない。他には、文章をわざと衒学的に書くなどといったことがそうである。活字慣れしていない人はそんな文章を読まないし、活字慣れしていない人は教養の無い人が多いので、即ち教養の無い人を避ける効用がある。

勿論弊害もある。高所得者であっても、いかにも高級車、という車に乗るのは嫌だという人はスポーツカーを買わないし、活字慣れしていても、時間が無い、という人は衒学的な文章を読まない。ターゲット層外の客を避ける代わりに、ターゲット層内の客も多少は離れてしまうのであるから、この方法をとるか否かは売り手側の価値観による。



注意書きという免罪符

これははっきりとターゲット層を明示することによって、ターゲット層外の客を切断操作しようと試みる方法である。タバコにおける、「未成年の喫煙を禁止します」という文句がそうである。未成年がタバコの味なんかについて文句を言ったところで、売り手側としては応対する必要は無い。そもそも貴方に吸わせるために売ってるんじゃないんです、それで終わりだ。他には、「文章中に○○に関するネタバレを含みます」という文句がそうである。文章を読んだ者がネタバレを批難したところで、売り手側としては応対する必要は無い。じゃあ読まなければよかったんじゃないですか、それで終わりだ。

勿論問題もある。注意書きというものは所詮免罪符に過ぎないからである。未成年でもタバコを買えるようにしているのがおかしいんじゃないか、という考えも存在するし、ネタバレ文を読めるようにしておくこと自体が悪なのだ、という人もいる。その辺りの線引き、「注意書きによって許されるのはどこまでか」の認識は人それぞれである。



そこからが大事

仮に、ターゲット層外の客の排除が完璧だったとしても、ターゲット層内の客がみな芸術品を賞賛してくれるとは限らない。高所得者だしスポーツカーは好きだが、君のところのスポーツカーは、フォルムがどうも好みに合わないよ、あるいは、成人だしタバコは好きだが、君のところのタバコは、風味がどうも苦手だよ、そういった客の不満は依然として発生するだろう。ターゲット層に準じるのならば、そういった客の好みを考慮に入れるべきだし、そういった客の好みを切り捨てることは、ターゲット層の更なる限定を呼ぶのである。



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