衒学ポップ :\ MnB \ ある商人の物語 #02




クダンへの道すがら、ウシュクルの村に立ち寄った。



とりあえず、村長にこの辺りの話をきくことにする。



「旅の方ですか?」
「はい。私はアルフォンス・ベネディクトといいます。行商人をしております」
「行商人のベネディクトさん、ですね。私はクレマン・ウシュクルと申します。この村の長をやっております。……ところで、私の思い違いであれば申し訳ないが」
こう切り返されて、私は内心戸惑っていた。おそらくこの人は父の名を知っているのだ。 それはつまり、私に対する印象が、この人の持つ、私の父に対する印象に似通ってくるということではないか。
「ダリウス・ベネディクト氏の――ご親戚の方ですかな?」
「はい、ダリウスは私の父です。父をご存知ですか?」
村長がどこまで父を知っているかによって、私に対する印象も変わってくる。
「ダリウスさんの息子さんで? それはそれは……」
村長は続けた。
「ダリウスさんにはお世話になっております。遠方の物品を安値で売ってくださいますから、私どもみたいな田舎者にはありがたいことです」
よかった。彼は私の父に好意的なようだ。しかし、やはり父がもうこの村には来られないであろうことを、私が父の跡を継いだことを、伝えておかなければならない。
「こちらこそ、取引していただいて助かっております。これからもよろしくお願いしたいです。ただ、実は先日、父が……」
村長が眉を曇らせる。
「仕事先で行方不明になりました。おそらくは、狼か山賊にやられたのでしょう。それで、私が若輩ながら跡を継いだのです」
これは少し嘘になる。父は明らかに、自らの意思で行方をくらました。
「それはそれは……、私どもとしても残念です。……いや、しかし、ダリウスさんのことだ。きっとそのうちひょっこり帰って来るに違いないですよ」
村長は本当に心配そうだ。
「はい。我々もそれを願っています」
すると村長は思いついたようにこう言ってきた。
「そうだ、この辺りには最近山賊が出るんです。是非、うちの村のもんをお供に連れて行って下さい」



そして私は、護衛としてイボンさんという男性を雇い、村を後にした。








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