衒学ポップ :\ MnB \ ある商人の物語 #05




私はアジュナ村にて一夜を明かした。未だ日も昇らないような早朝だ。村人達は皆眠っている。しかし、その静けさをかき乱す、慌しい足音が聞こえてきた。



「ベネディクトさん、大変だ!」
男性は荒い息を少し整える。
「隣のバランリ村で、あんたのお連れさんが見つかった。ひどい怪我だ」
「イボンさんが? なんてことだ、すぐに向かわなくては」
私が厩舎に向かおうとすると、男性が立ちふさがった。
「いや、違うんだ。大変だってのはそのことじゃない。盗賊のことなんだ。バランリが今、山賊に襲われてるんだよ。行かないほうがいい。お連れさんは……残念だが、諦めるしかない」
少し沈黙が続いた。
「どいて下さい。山賊が来ているのなら、なおさらのことです。仲間を見殺しにするわけにはいかない。なあに、これでも腕には少し自信があるんですよ」
きょとんとしている彼を私が腕で軽く押すと、ようやく、私が何を言っているのか理解したらしく、呆れたような、怒ったような顔をして、それでも彼は道をあけてくれた。
「好きにすればいいさ、けど俺は止めたし、うちの村は関係ないからな!」



バランリ村近くは、深い霧に覆われていた。その向こうから叫び声が聞こえる。既に戦いは始まっているようだった。





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