衒学ポップ :\ MnB \ ある商人の物語 #06




バランリの村人達は押されているようだった。当然だ。彼らは農作業には慣れているが、戦いには全く縁を持たない。山賊側も、戦い方を見る限り、大して訓練を受けておらず、ただ力にまかせて突撃しているだけのようだったが、それでも主武装が鍬の農民相手ならば十分だった。



「イボンさん! 怪我は大丈夫なんですか?」
彼はこちらに走ってきているが、どこか動きがぎごちない。右足の動きが鈍く、気力で痛みをかき消している、といった風だ。私は彼の方に馬を進めた。
「アルフォンスさん、あんた、なんで来たんだ!」
「あなたを助けに! それにバランリを守らなくては!」
すぐそばで見ると、恐らく、山賊に殴られたのだろう、イボンさんの顔には痣ができていた。そのせいでよく見えないが、表情から察するに、彼は呆れているようだ。ちょうど、アジュナ村で私を引き止めた男性の表情に似ている。
「あんたって人は、ほんとのお人よしですな。世間を知らない。そんなんじゃ――」
イボンさんはそこまで言って話すのをやめ山賊の方を見て、フン、と鼻で笑った。
「まあ、もう関係ねえか。行きましょう。私も怪我をしてるがね。寝たまま殺されるくらいなら戦って死んだほうがましだ」
「死ぬ気ですか?」
「殺されるか、奴隷にされるか、どっちかでしょ」
イボンさんはそう答え、自嘲気味に笑った。だが、私は笑わない。
「言ったでしょう、私は、あなたとバランリ村を助けにきたんです。あなたは怪我をしている。ここにいて下さい。私に借りを返させてください」
私は馬の横腹を蹴った。





















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