衒学ポップ :\ MnB \ ある商人の物語 #17




「馬鹿げているよ、ヤルモさん。そんなことは絶対に許せない」
そう私は反論する。
「みなが逃げ切ることは不可能です。いずれ戦闘が始まる。そうすれば、壊滅は免れられません。どちらにせよ、我らにとって、ここが死地なのです。ならば責務を全うし、主を守って死にましょう。私は貴方を命に代えてもお守りすると、誓いました」
「いいか、ヤルモさん、馬車の積荷を全て捨てるんだ。それで何人かは馬車に乗ることが出来る。他の者は散り散りに逃げる。奴らの狙いが私の商品ならば、わざわざ追いかけては来ないだろう」
「しかし……」
ヤルモさんは怪訝そうな表情を見せる。
「奴らの狙いが積荷だと、本気で思っているわけではないでしょう? 一人の行商人の為に、これだけの海賊が集まる筈が無い」
やはりヤルモさんも、気付いていたらしい。彼の言う通り、海賊達の狙いは私の商品ではないだろう。何者かが、裏で糸を引いている――恐らく、ジャコブが。もしそうならば、この場をやり過ごしたところで、結果は変わらないだろう。
「ここまで随分と海賊を退けて来たのです。戦力を分散し逃げ惑うくらいなら、戦ってみることにしましょう。なあに、簡単にはやられはしませんぞ」
ヤルモさんがにやりと笑う。彼の後ろでは、歩兵達が既に迎撃体勢を整えていた。



「ならば」
私はヤルモさんの目を見て、言った。
「賭けてみる、と言うのなら、私も戦おう。わかってくれ、ヤルモさん。仲間を見捨て、自分一人だけ賊から逃げるなどということは、私の誇りが許さないのだ」
ヤルモさんがどう思ったにせよ、もはや彼に、反論する時間は残されていなかった。海賊達はすぐそこまで迫っている。私は自分の剣を鞘から抜いた。



その時であった。



「おい、あれを見ろ!」
ヴァジが海賊の後方を指差し、叫ぶ。



現れたのは、ノルド兵であった。





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